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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)17号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について順次検討する。

1 取消事由<1>について

(一) 成立に争いのない甲第二号証の一、二によると、本願明細書には、本願発明の概要について、「本発明は、取扱い容易な前分散せる比較的無毒性形の殺生剤を供給するために高濃度の殺微生物剤を含有する固体重合体配合物に係わり、またこのものから樹脂製品を形成する方法に係わる。」(明細書八頁三行―七行)との記載が、また、本願発明の先行技術について、「これまで、殺微生物剤組成物は、粉末として又は液体組成物として樹脂に添加されてきた。」(同八頁一七行―一九行)との記載が、そして本願発明の技術的課題として、「あいにくなことに、通常用いられる殺微生物剤の多くは、普通の液体樹脂添加中での溶解度が全く低い。それ故、望ましくない高濃度の液体キヤリアーを回避しつつ十分に高濃度の殺微生物剤を樹脂に混入させることは困難である。」(同九頁一二行―一六行)、「樹脂を保護するのに有効な大抵の殺微生物剤は粉末であるので、この大気中に容易に分散しうる微粉末固体を連続的に取扱うことによつて、その隣接領域で作業する者に対し毒性の主問題が提起される。」(同一〇頁一二行―一六行)との記載が、更に右技術的課題を達成する手段について、「殺微生物剤の濃度が、その通常用いられる有効濃度よりも高い固体の殺微生物配合物を提供することは非常に望ましく而してそれにより、液体キヤリアーの必要性が排除される。これは、殺微生物剤を引続き所望濃度で樹脂組成物中に混入させることを許容しながら一方では毒性危険を阻止し、しかも最終樹脂製品中の液体添加剤の濃度制御を改善する。更に、殺微生物剤を樹脂中に混入するときそれによつて樹脂が減成せず、殺微生物剤そのものも減成ないし分解されない如上の組成物を提供することは望ましく而してそれにより、殺微生物剤が有効濃度で存在するように樹脂中に上記配合物を引続き混入させることができる。」(同一一頁一〇行―一二頁二行)との記載があることが認められる。

(二) 前掲明細書の各記載並びに当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、殺微生物剤を樹脂に配合する従来技術は、粉末状殺微生物剤をそのまま樹脂に配合すると、この粉末状殺微生物剤が飛散し、そのためにこれに従事する作業員への毒性問題が生じ、また、粉末状殺微生物剤を溶剤に溶解して使用する場合高濃度の殺微生物剤溶液とすることが困難であり、しかも溶剤の使用が樹脂に対して望ましくないなどの欠点を有するので、本願発明1はこれら問題点を解決するための手段として、殺微生物剤の濃度が通常用いられる有効濃度よりも高い殺微生物剤を含有する固体配合物とすること、換言すれば、樹脂の一部に、最終樹脂製品とするのに必要な殺微生物剤の配合量よりも多い量を添加混合した固体配合物とすることを採用したものと認められる。

(三) ところで、審決のいう周知技術(前掲審決の理由の要点4の(一)に記載のもの)は、マスターバツチ法又は親ねり(法)として、本願の優先権主張日前から広く知られた方法であることは、原告も認めるところである。そして、成立に争いのない甲第四、第五号証及び乙第一ないし第四号証の各一ないし三によると、マスターバツチ法は、一般に、ある材料に他の配合剤を添加するに当たり、まず少量の材料に配合材の全量を加えてよく分散混合した高濃度のものを調整し、これに大量の生材料を加えて目的の濃度のものを得る方法とされ、例えば、ゴムやプラスチツクなどの原材料に、配合薬品、顔料などの着色材を混入し、均一分散を図るのに用いられ、この方法によると、配合割合を正確均一にすることができるほか右配合剤の飛散ないし飛散による汚染を防ぐことができるものとされていることが認められる。

(四) 右(一)ないし(三)に述べたところを併せ考えれば、本願発明1の発明の要旨とするところは、その所定の固体熱塑性樹脂と殺微生物剤との関係について、まさにマスターバツチ法そのものを採用したものであり、右要旨にいわゆる固体配合物とは、右マスターバツチ法におけるマスターバツチであることが認められる。

そして、前記(一)に認定の本願明細書の記載からも明らかなとおり、本願発明1における技術的課題は混合分散性の悪い混合物を樹脂に均一に分散させること、あるいはこれが飛散して従業員等に悪影響を及ぼすなどの点を防止することであるが、マスターバツチ法を用いれば、右に述べた同法の特質からみてこれらの課題が解決できることは当然のことといわなければならない。原告は、マスターバツチ法は、殺微生物剤のマスターバツチが毒性を十分抑制しており、それを混入した最終樹脂が微生物学的減成に対して抵抗性を確保できるという知見を与えない旨主張するが、本願明細書(前掲甲第二号証の一、二)を検討しても、マスターバツチ法を適用するに当つて右問題点の解決に格別の困難があつたことやそのために特段の手段を講じたことを窺うに足りる記載は見当らないので、この点は、被告が主張するとおり、当業者にとつて自明なことであつたと認めるのが相当である。したがつて、マスターバツチ法を殺微生物剤の配合に用いることは当業者の容易になし得ることであるといわなければならない。

もつとも、成立に争いのない甲第三号証によると、引用例に記載の殺微生物剤(A)と合成樹脂との配合について右引用例に示された具体的方法は、原告が主張するとおり、殺微生物剤の全量を一括して樹脂全量に添加するものであつて、マスターバツチ法を採用した具体的事例は見当らない。しかし右甲第三号証によれば、引用例には、「本発明において用いられる水銀化合物の配合方法は、顔料、軟化剤および触媒のような添加物を配合するのによく用いられる方法で行うことができ、そのまま配合してもよいが可塑剤その他適当な溶媒に混合あるいは溶解したものを配合することができる。」(三頁左欄八行―一三行)との記載があり、この記載と前記(三)に述べたマスターバツチ法として一般に説かれているところを併せ考えると、前記の記載は、マスターバツチ法が可能であることを示唆しているものと解することができる。したがつて引用例は、前記の認定に副うものでありこそすれこの認定を妨げるものではない。

(五) よつて、原告の取消事由<1>の主張は採用できない。

2 取消事由<2>について

(一) 前掲甲第二号証の一によると、本願明細書の発明の詳細な説明には、殺微生物剤の濃度に関し、「本願発明の配合物中の殺微生物剤の濃度は熱塑性組成物の全重量を基にして約一~八〇重量%好ましくは約五~五五重量%である。殺微生物剤の濃度は、特定の殺微生物剤および樹脂組成物並びに樹脂中でのその相対的混和性に依拠する。各例において、殺微生物剤の濃度は、最終樹脂調合物中でのその標準的上限使用濃度より少くとも約二〇倍高い。」(一五頁一―八行)、「いずれにせよ、殺微生物剤の濃度は、これを第二の熱塑性樹脂組成物に添加するとき殺微生物剤が第二熱塑性樹脂組成物の重量を基にして約〇・五~一五重量%の有効濃度で該第二組成物中に存在するように調節される。」(一五頁一七―一六頁一行)と記載されていることが認められ、これらの記載は、殺微生物剤の濃度は結局使用する殺微生物剤の種類及び熱塑性樹脂の性質に応じて、あるいは最終樹脂において要求される殺微生物剤の濃度との関連において、当業者が必要に応じて適宜選択決定するという趣旨であることが明らかである。

(二) そうであるとすると、本願発明1の要旨における「約一~八〇重量%」及び「標準的な上限使用濃度より少くとも約二〇倍高い」との殺微生物剤の濃度に関する各数値は、これらに格別の臨界的意義があることを認めるに足りる証拠がないので、いずれも殺微生物剤を使用するに際して、望ましい大よその範囲を示したに過ぎないものというほかはない。

(三) したがつて、本願発明1において殺微生物剤の濃度を前記のとおり限定することは、当業者が適宜なしうることというべく、右濃度条件に格別の創意がないとした審決の判断には誤りがない。

(四) よつて、原告の取消事由<2>の主張も採用できない。

3 取消事由<3>について

(一) 原告の主張する作用効果(一)の点について

前掲甲第二号証の一によれば、本願明細書中に可塑化効果につき、「この効果の程度は、用いられる熱塑性樹脂のタイプ並びに用いられる殺微生物剤の種類および濃度に依拠する。」(一九頁一〇行―一三行)との記載があることが認められる。そして、前掲本願発明の要旨によれば、本願発明1においては、熱塑性樹脂の種類は特定されているが、殺微生物剤の種類は特定されていないのであるから、その中に可塑化効果を発揮すると認められるものがあるとしても、それは、特定の殺微生物剤を用いた場合における効果というほかはなく、本願発明1の構成に基づく効果ということはできない。

(二) 同(二)の点について

殺微生物剤がマスターバツチの状態になると、これを使用する際に殺微生物剤の飛散による毒性及び環境汚染の問題が軽減されることは、マスターバツチ法の特質として述べたところからみて当然のことといわなければならない。したがつて本願発明1における固体配合物を合成樹脂類に配合するに際して殺微生物剤の散逸を防ぐなど原告主張の(二)の効果は、マスターバツチ法を採用した場合の自明の効果であつて、本願発明1に特有の効果ということはできない。

(三) 同(三)の点について

前認定のとおり、殺微生物剤のマスターバツチが毒性を十分抑制していることは当業者にとつて自明なことであつた。このことに前記2に述べた濃度に関する数値規定が特段のものでないことを併せ考えると、原告が主張する(三)の作用効果も本願発明1に特有の効果ということはできない。

(四) そうすると、原告の取消事由<3>の主張も採用できない。

4 以上述べたところからすれば、原告の主張する審決の取消事由は、いずれも理由がなく、審決の認定、判断に誤りがない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 ポリ塩化ビニル、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、ポリオレフインおよびポリスチレンより選ばれる固体熱塑性樹脂と一~八〇重量%の殺微生物剤との溶融ブレンドされた均一混合物よりなる固体配合物であつて、該殺微生物剤の濃度がその標準的な上限使用濃度より少くとも約二〇倍高くかつ該殺微生物剤が前記樹脂中に固定され事実上無毒化されており、しかも前記混合物を別の熱塑性組成物に、該混合物と該熱塑性組成物とを相溶性にするのに十分低い濃度で添加するとき該混合物中の前記殺微生物剤の濃度が該別の熱塑性組成物を微生物学的減成に対して抵抗力のあるものとするに十分であるが如き固体配合物。

2 ポリ塩化ビニル、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、ポリオレフインおよびポリスチレンより選ばれる固体熱塑性樹脂と一~八〇重量%の殺微生物剤との溶融ブレンドされた均一混合物よりなる固体配合物を、有効濃度のしかも毒性危険を呈する濃度よりは低濃度の殺微生物剤を含有する固体熱塑性調合物の製造に用いる方法であつて、前記殺微生物剤の濃度がその標準的な上限使用濃度より少くとも約二〇倍高く且つ前記殺微生物剤が前記樹脂中に固定され事実上無毒化されており、しかも前記混合物を別の熱塑性組成物に、該混合物と該熱塑性組成物とを相溶性にするのに十分低い濃度で添加するとき該混合物中の前記殺微生物剤の濃度が該別の熱塑性組成物を微生物学的減成に対して抵抗力のあるものとするのに十分である前記殺微生物活性配合物を粒子形で用意し、該粒子形の殺微生物活性配合物と前記別の(第二)熱塑性樹脂組成物とを、該殺微生物活性配合物および該第二熱塑性樹脂組成物の軟化温度以上の温度で混合し、しかも殺微生物活性配合物の濃度が該配合物と前記第二熱塑性樹脂とを相溶性にするのに十分低いものであるようにし、しかる後生成せる混合物を冷却して前記殺微生物活性配合物と第二熱塑性樹脂とを均一混合形状で含有する固体を形成することよりなる、殺微生物活性固体配合物の使用方法。

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